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共鳴

 

 

 

「一度、遊びでいいからロックバンドをやってみたいんだけど。」

そんな軽いはずみのような発言に、快く乗ってくれた友人がいた。

その時はとりあえずエレキギターとドラム。ベースはできる人がいなかった。まあ無しでなんとかなるだろう、と彼は言った。

私がサックス以外の楽器はできないから歌で。曲はどうするのか、と聞いたら「それ用に作ってくるよ。」と返された。

 

何日か後、ついに集合日。私はリハーサルスタジオに入るのは初めてだった。

いろんな機材を初めて見た。大学で同じく管楽器専攻だった友人がエレキギターを弾いているところ、そしてドラムを叩いているところを初めて見た。違う楽器もできるなんてすごい。

そして、私は初めてスタンドマイクの前に立った。

 

 

「とりあえず、曲作ってきたから音出しをしよう。」

アンプを通したギターの音は大きかった。こんなに大きな音が出るのか。耳壊れそう。それにドラムが被ってくる。耳ちぎれそう。

ギターを弾きつつ、歌詞とメロディーを歌ってくれた。

「ミッタって椎名林檎好きでしょ?それっぽい曲にしてみた。」

めちゃくちゃにカッコよかった。確かにちょっと椎名林檎っぽい。

その曲を1番のサビまで練習して、あっという間に部屋のストロボが光りだした。

耳の中がボンボンしている。大きな声で長時間歌ったから、声もガサガサだった。でも、とても満たされていた。一度きりの夢が叶った。

 

「1番までなの勿体無いなー!続きやりたいー!」

「曲のタイトルはなんていうの?」

「んーと、『グレーの仮面』。」

 

2013年の冬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後私は地元に戻って、緩やかな日々を過ごした。別の目標もあったから、無意識に歌うことから離れていたけど、激しい音楽は変わらず好きだった。

いつだったか東京に遊びにいった時に、「せっかくだからベースを入れよう」と、半ば無理やり未経験の同期の子を引き連れ一緒に練習した。たまたまその子の家のベースがあったから。久々の『グレーの仮面』。まだ弾けていないベースでも、あると音楽の形がはっきりした。

またゆるっと集まってゆるっとやろう。その後の新宿での飲み会は楽しかった。その時あたりにとりあえずバンド名を決めようと、LINEで話したと思う。

表の自分と裏の自分、というような意味で、retroは仮面。quattroは4。

四人の裏側。くっつけて【クアトレトロ】に決定した。

そしてまた日は開いた。

 

 

 

ある年の秋の暮れ、私は当時遠距離恋愛をしていた人とお別れした。

振られたのは私の方だった。私はまだとても好きだったから、何週間も塞ぎ込んで、心身共にかなり荒れていた。普段は自ら他人に連絡を取らない私だけど、その時は自分の心が助かる方法を探して色んな人に連絡を取り、電話越しで泣いていた。

 

ここまで自分の感情がコントロールできないことになるのか。

人に話して少し気持ちは軽くなっていたが、思い出しては泣いていた。

何かに気持ちを映したくて、深夜ベッドの中で感情に任せて一気に携帯のメモに詩を書いた。

 

 

「美しい記憶 どうか其の儘

永遠に綺麗でいて」

 

 

タイトルは、『コールド・スリープ』にした。

 

 

 

 

 

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春、関東からクアトレトロの3人が石川県に来た。旅行も兼ねて私を慰めに来てくれたのだ。楽器も持ってきてくれた。

どこに行くかのプランは私が立て、観光地を回りつつ一日だけスタジオを入れた。その時にギター君が先日書いた『コールド・スリープ』の詩に歌とリフなどをつけてくれて、音だしをした。

 

歌ってみて、自分の書いた歌詞の重さと感情の高さを感じた。

ギターがめちゃくちゃに切ないコードを弾く。想いを出すってこういうことか。

『コールド・スリープ』を一曲歌い終わったあと、感情に飲み込まれて放心状態の私の目から勝手に涙が溢れていた。メンバーの背中を借りてバカみたいに泣いた。

 

 

その後から、ちゃんと情緒を取り戻していた。言葉と歌に昇華させて、自分の気持ちに整理がついたんだと思う。人によって物事の整え方があると思うけど、私はこれが一番大きかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その何年か後、私は関東に戻り、クアトレトロはゆっくりと定期的に活動し始めた。

『グレーの仮面』は2番も大サビも完成し、『コールド・スリープ』はバラード枠で欠かせない存在になった。

北浦和で初ライブをして、やっと世間にお披露目した。

 

 

 

私は詩を書くのが、文章を書くのが好きだった。

『歌詞を書く』という行為は私のグチャグチャな頭と感情を整理するため、そしてそれを歌うことは昇華だった。

 

 

 

 

クアトレトロの4人で作れる音楽で、私の中の『ある一面』が満たされている。

その人を象っている『面』は一種類だけでなく、たくさんの面があると思っていて、クラシックの私、独りで即興をする私、グリーンレイの私、バンドの私みたいな。それ全部私で、感情の動く面は違うけど高さは同じで近郊を保ってて、みたいな。独自の考え方かもしれないけど。

 

好きな音楽を好きな楽器でやりたいし、たくさんの言葉を残したい。

共感されたいと思っているわけではないけど、自分たちの作ったものを楽しんで、共感をしてくれる人がいたら嬉しいし、それで満足だ。

バンドは表現活動として大事なアウトプットの場。この4人の近い温度感で共鳴していて、ちょうどよく成り立っていると思う。いつも私がわがままばかり言ってると思うけど、ずっと大事にしたいんだ。

 

 

 

 

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先日レコーディングのミックスが終わり、完成の音源が届いた。

いい音だ。現ヘブンズロック新都心のエンジニア森田さんはたくさんのわがままを聞いてくれて、感謝しかない。

レコーディング、クラシックサックスで最初にやるかなと思っていたけど、ロックバンドが先だった。しかもオリジナル。宝物だ。

どうやって配布するかは検討中だけど、私たちの表現を「かっこいい」っていい音で楽しんでくれれば嬉しい。

 

 

 

今週末、2/16(日)は大宮ヒソミネさんでライブです。

ホールの照明がVJでとても綺麗。友人のナリモの岩井さんに教えてもらってから、とても気になってたハコだったので、今回ここで歌えるのがとても嬉しい。とても楽しみ。

変わらずクアトの音楽をやります。

 

 

 

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2/16(日)exhibit

大宮ヒソミネ (JR高崎線宮原駅徒歩9分)

open18:00 / start18:30 (当初から時間が変わりました)

¥2200 + 1 drink

クアトレトロの出番は一番です。

 

物販は昨年秋に作った私のフォトブックとポストカードを持っていきます。

 

ご予約はこちらにお名前と人数くださいな。